見出し画像

やはり高かった、高次脳機能障害の人の供述の信用性と配慮違反立証のハードル 岐阜特例子会社判決深掘り

愛知県名古屋市に本社を置く人材会社Man to Manの傘下にあるMan to Man Animo株式会社の岐阜県内にある営業所で働いていた、高次脳機能障害および強迫性障害を抱えた女性(41)が岐阜地裁に起こした裁判で、8月30日、鳥居俊一裁判官は請求棄却の判決を言い渡した。

争点は、特例子会社での高次脳機能障害の人への合理的配慮、障害のある労働者に対し障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な援助を等の措置を講じなければならない義務を怠った否かだった。

判決後の原告弁護団の会見

判決後、原告弁護団は「障害に全く無理解な判決」としており、控訴を検討する考えを示した。

現在、各方面の専門家に判決へのコメント依頼を打診している。集まり次第取り上げていく。

今回は、筆者が判決等の深掘りをする。

女性の高次脳機能障害と、求めた配慮

原告女性の作成した冊子

女性の障害は、交通事故で脳外傷を受けたことが原因で起きる「高次脳機能障害」。女性は13歳で事故に遭ってから8年後、「脳外傷」を知り、紹介先の病院で検査をして、記憶障害、注意障害、遂行機能障害などの症状があることがわかった。

見えない障害であり、自分で認識することにも、他人に理解してもらうことにも困難がある。人の話を理解することに困難があるがゆえに、「聞いていたのにできない」ということが起きることもあった。社会人2年目で、相手の話を「わかったつもりになっている」ことに気付いた。例えば、「鉛筆とか定規とか消しゴムとかコンパスとか」と聞いて、その単語ひとつひとつを聞き取ることはできても、「要するに文房具のこと」と要領を得ることはできなかった。

記憶障害への対策から、「指示されたら忘れないようにメモをとる。メモをとったら、要点だけでなく、内容をできるだけ細かく自分にわかるようにまとめ、マニュアル化する」といった方法で自助努力を重ねてきた。

強迫性障害もあり、その症状として、不潔恐怖、縁起強迫がみられ、これとは別にパニック様症状がみられる。

この他にも、腰が悪いために、運動靴以外の靴は医師に止められていた。

以上が、女性の障害の症状に関する説明である。さて、女性は具体的にどんな配慮を求めていたか。

女性が2008年の入社時に被告会社に申し入れしたのは、

①指示は、一度に二つまでにしてほしいこと
②服装の自由を認めてほしいこと
③指示者を一人にしてほしいこと
④新しい仕事は一日一つまでにしてほしいこと
⑤強迫性障害のため、トイレに時間がかかることを了承してほしいこと

また、入社時に申し入れしたことに加えて、以下のような配慮も求めていた。

⑥一度に二つ以上の情報を入れないこと
⑦一度に指示をする場合は、手順を番号で伝えること
⑧脳疲労を感じたら休憩させること
⑨オフィスルームのレイアウト替えや席替え、指示者の変更など、女性に関わることで女性の職場環境が変わることがあれば、事前に女性に連絡すること

被告会社は、①~⑤は入社時に了承。女性から①~⑨の要望があったことは認め、会社はこれらの配慮をしてきたと主張する。

女性が配慮違反を主張していたのは②と⑨で、特に②が重要焦点となった。問題が起きるようになったのは、上司が変わった2013年3月以降。

・自由な服装から上司の言葉でブラウス着用した後、トイレにかかる時間が15~30分に増え、仕事は通常の半分しかこなせなくなった。また、翌日は疲労で調子が悪く、午前中欠勤をすることもあった。

女性が着用したブラウス。中央に大きなひらひらとしたものが付いていた。「ひらひらとしたものが着いた服は、女性の身体に支障となり、仕事に集中できなくなる」と女性の支援者は述べた。

・上司の言葉でスーツ着用した後、強迫症状が悪化し、トイレにかかる時間が40~50分になった。これと同時期に、前進会社から新体制になった会社の入社式には全員スーツを着てくるように、という指示があり、女性はスーツに近い服装で入社式に臨んだところ、ひどい頭痛と過呼吸が出た。

・上司の言葉で革靴を着用した。女性は医師から革靴を履くことを止められていると話したが、結局は革靴に見えるウォーキングシューズを履いて出勤することにした。ひざを痛め、このことを訴えたが、女性が医師の診断書を提出するまで、革靴着用は撤回されなかった。

女性が着用した、革靴に見えるウォーキングシューズ。

・女性は2015年1月以降休職し、医師により強迫性障害、気分障害と診断された。本件における最新の診断書は2015年5月のもので、「強迫性障害と診断し、同年7月まで就労不可、職場復帰の際は症状に対する理解、改善が必要であると思われる」というものだった。医師は、上司・女性それぞれと面談しており、「女性は、努力していないというより高次脳機能障害のによる柔軟性の欠如によって行き詰っている可能性がある」という見方を示した。復職に向けた面談で、心理士は職場改善を求めた書面を会社側に提出した。会社側は書面を読んだものの、「『できない』ではなく、まずほかの方法を考えるように」という旨を述べたにとどまった。話はまとまらず、女性は2016年9月に退職届を提出して退職。

裁判所の判断指針は

障害者雇用促進法の合理的配慮について、岐阜地裁民事第2部の鳥居俊一裁判官の判断指針はどういうものだったのか。

原告の雇用主である被告が、障害者である原告に対して自立した業務遂行ができるように相応の支援、指導を行うことは、許容されているというべきであり、このような支援、指導があった場合は、原告は、業務遂行能力の向上に努力すべき立場にあるというべきである。よって、被告が、原告の業務遂行能力の拡大に資すると考えて提案(支援、指導)した場合については、その提案(支援、指導)が、配慮が求められている事項と抵触する場合であっても、形式的に配慮が求められている事項と抵触することのみをもって配慮義務に違反すると判断することは相当ではなく、その提案の目的、提案内容が原告に与える影響などを総合考慮して、配慮義務に違反するか否かを判断するのが相当である。

判決

「強要ではなく提案だった」の根拠となった「解釈のズレ」

判決の特徴として、女性が配慮違反と主張するエピソードの事実認定がすべて、「本人は、ウソは言ってないが、支援や指導を強要と受け取る傾向が強く、そこに高次脳機能障害による『解釈のズレ』が生じたことが、今回の事件の本質」という被告会社側の認識を追認したものになっていた。物的証拠(特にハラスメントを受けていた時の録音やビデオ)・会社でハラスメントを目撃した第三者の証言の不足に加え、女性に記憶障害があったことや、「上司の指示を正しく理解していないところがある」ということで、本人供述やmixi(日記)の信用性がないとされた。

「解釈のズレ」という言葉は、判決文には出てこないが、被告側の「強要ではなく提案だった」という主張の根拠になるキーワードだ。

双方の主張が真逆となり、どちらの側にも客観的証拠が不足するなか、裁判所の判断は供述の真実性がどちらにあるかに基づいて行われるとみられた。その結果、

mixiは原告が記憶後早期に記載したもので信用性がある旨主張するが、原告は、記憶力に障害がある上、被告会社上司らの発言内容が仮に正確であったとしても、被告側が強要したとは認められないし、一般にブラウスやスーツや革靴を着用することは、社会人としての業務遂行能力(就労の機会)や活動範囲を広げることにつながるところ、それを正しく理解せずに記載していると認められるから、少なくとも原告の認識や意見にわたる記載部分は必ずしも信用性が高いとは認め難いといわざるを得ない。

判決

女性は高次脳機能障害の症状で記憶障害があり、「指示を正しく理解できないことがある」とされたことが、供述の信用性を減退させるような事情となり、mixiや意見陳述は核心部分に近い事情についての客観的な裏づけがないとされた。

原告のmixiの記載内容には、以下のようなものがあった。

「原告が上司に、『今日はスーツを着て出勤する日だと聞いていますが私にはできませんので、お休みをいただこうと』私の話を遮って『居ればいい!』と上司。『では、こんな格好ですが会社の一員として参加してもいいでしょうか』『あったりまえだ!』『では、終わったらすぐ帰り…』『居ればいい!俺がいいって言うんだから、いい!』」との記載(2013年4月3日欄)

「『想定外の発作が出た入社式だった』みたいな話を同僚にメールしたら、その返事に、『少しずつやっていけばいい』」との記載(2013年4月6日欄)

原告は最終口頭弁論で、「会社側の主張には事実でないことが多い」と陳述。会社側証人が聞き取りをしたと主張するリハビリテーションセンターにメールで問い合わせたら、「会社側証人から問い合わせが来たことがない」と答えたという。(2022年5月19日意見陳述書)

また、復職面談における事実認定でも、「会社としての方針や、女性に希望することを述べたものの、職場復帰や職場改善の拒否はしていない」という被告会社側の認識を追認したものとなっていた。

障害者問題の裁判に伴うバリア、誤解や偏見も

これまで合理的配慮義務違反が認められた判例は少ない。ただでさえハラスメントは目撃者や物的証拠が不足することが多い。それに加え、見えない脳機能障害(知的障害、精神障害)があると証言に信ぴょう性がないとされることも多い。被害を訴えても信じてもらえないからこそ、「ハラスメントのつもりはなかった」行為がエスカレートしていくことがあるのだが。

この裁判には、障害のある人が裁判を起こすうえでの非常に深刻なバリアが現れている。

「訴えた側がハラスメントと言えば何でもハラスメント認定される」という声が時折あるが、それは司法の現状に照らせばありえないこと。またハラスメントは、証拠に加えて、その行為が正当化できるものかどうか、行為の結果生じたことにも着目されたうえで認定される。

一方で、「訴えられた側が、相手の障害に由来した『解釈のズレ』と言えば、何でも『解釈のズレ』認定される」ことに懸念があるといえないか。

「解釈のズレ」のほか、「発達障害の人は自己を客観視する力が弱い」といわれていることに由来した「認知の歪み」も同様だ。

障害者問題の裁判に伴う誤解や偏見として、「障害者は被害妄想が強く何でも差別や権利を主張する」「障害者の言うことを全部聞いてたら会社がつぶれる」というものがあり、ネットでのバッシングも起きている。この判決によって、偏見を強調したレッテル貼りが強化され、働く障害者がますます声をあげづらくなったり、支援者が問題を指摘しづらくなり、本人も支援者も「そのくらいは我慢すべきでは」と考えるようになるおそれも懸念される。

岐阜地裁判決を伝えるニュースへのネット上の発言

高次脳機能障害のような見えない障害は総じて、当事者の思いや困り感が理解されにくい構図がある。一見普通に見え、できることが多そうだが、一般人は何の問題もなく着用できるブラウスやスーツ、革靴を着用しようとすると、体調が悪化することを訴える人がいる。それは「嫌だからやらない」のではなく、「とても苦手なことで、無理すると症状が悪化する」ということ。こうしたことへの想像力を、司法が働かせられるかが課題だった。

日本のメディアでの裁判報道では、判決が出てから内容を簡潔に伝えることが多く、その事件が抱える問題を掘り下げにくい傾向にある。しかし、双方の主張を機械的に示し、判決を垂れ流すだけでは、何が問題なのか可視化されにくい。放っておけば、人はいつまでも誤解や偏見を修正することがないまま、ということになっているのではないか。

配慮違反立証、弁護団も模索

審理中のうちから、原告の支援者は筆者とのメッセンジャーで、体制が変わるまでは会社を信じていたからこそ、客観的な物証が不足することになり、そのなかで立証しなければならない困難さ、裁判官に、理解されにくい問題を理解してもらうように伝えることの困難さを切実に訴えていた。「訴えた方に立証責任があるというが、必死で働いていた彼女にどのような客観的証拠が集められたのか。会社側から証人を得ることも困難で、尋問では原告本人のみだった。会社にはいじめに加担した複数の上司や同僚がおり、逆に心ある人は会社に睨まれれば辞めなければならず弱い立場におかれ、証言に協力が得られなかった。また働いている間に、客観的証拠を集め、記録しておくことなど、普通は考えられない。立証できなければ『被害者』とは認められず、逆に障害者側に問題があったとされる厳しい現実がある」

一般に、ハラスメント被害者に障害があった場合、先述のとおり障害ゆえに供述に信用性がないとされやすく、深刻な被害の実態があっても、「物的証拠(特にハラスメントを受けていた時の録音やビデオ)」「証言する第三者」「相手側が行為を認めているか」の3つのうち、2つ以上がそろわなければほとんど勝てないとみられ、人権救済に向けた提訴そのものを断念することが多いといわれている。

原告弁護団は、ハラスメントを受けていた時の録音やビデオがないからこそ、「以前はできていた配慮が体制変更でできなくなったことや、復職に向けた面談で心理士や障害者職業センター担当者が職場改善を求めたことを会社側が拒否し、復職への道を閉ざしたことを問題視していく」ということにしていた。「仮にそれが強要ではなく提案という形であったとしても、力関係を背景に高次脳機能障害の女性にとって慣れたことを変更すること自体が合理的配慮義務違反」という結論を導き出すことは可能、と原告弁護団は考えていた。裁判でもそのように主張してきた。

証拠では、女性本人のmixi(日記)と、復職に向けた五者面談の記録などがあり、原告側はこれらを提出していた。

別の障害者雇用訴訟では、本人が社内で相談した記録があり、その提出を裁判所が被告会社側に求めているケースがあることから、筆者は被告会社である特例子会社にハラスメント相談窓口があったのか、気になっていた。筆者が女性やその支援者に聞き取ったところ、社内に相談窓口はなかったという。女性が社内で相談した記録はなかったもようで、それが証拠として出されることはなかった。

スーツや革靴着用は一般に「能力や活動範囲を広げる」?

判決を通して、「一般に~は社会人としてのマナーであり、業務遂行能力や活動範囲を広げることにつながる」というフレーズが繰り返されている。

確かに日本の社会通念として、「会社ではブラウスやスーツや革靴を着用するもの」というのがまだまだある。

しかし、それらが障害特性上無理であり職場改善が必要であるという医師の診断書が出ているのであれば、無視してよい事情ではないのだが(革靴着用は医師の診断書提出で撤回された)。

症状悪化との因果関係 判断は示されず?

「指示の変更」と「強迫性障害の症状が悪化し休職」の因果関係についても、焦点になるとみられたが、判決では何も触れられておらず、判断は示されていなかった。

事業者側の過失責任を問ううえで、強迫性障害などの精神障害があると、症状悪化と不法行為との因果関係の認定はどうなるのか。

厚労省サイトでダウンロードできる「精神障害の労災認定」という資料がある。それによると、発病後の悪化については、「特別な出来事(生死に関わる病気やケガ、性暴力、極度の長時間労働など)」「心理的負荷が強度とされる出来事(重度の病気やケガ、業務関連の重大な事故、業務関連の重大なミスと事後対応、退職強要、パワーハラスメント、暴行、ひどいいじめ・嫌がらせ)」がなければ労災認定になりにくい。

一般に精神障害者は、健常者よりもストレスに弱い場合が多く、「因果関係を何でも認定するようになると、精神障害者を雇用するリスクが極めて大きくなってしまう」ということで、時に事業者側に寄り添いすぎる判断がされることがあるという。

時代の二歩も三歩も後ろを行く判決

障害を持つ人々にとっての自己決定は課題である。しかし、「あなたのためを思って」と、本人の意思を聞かずに、先回りしてやったり、決めたりすることも差別になる場合がある―。そうした意味を持つ、「私たち抜きに、私たちのことを決めないで」という言葉が、障害者の権利擁護運動で語られてきた。

「私たち抜きに、私たちのことを決めないで」を合言葉に、障害者権利条約が作成された(日本は2014年批准)。障害者権利条約は、社会モデルの考え方を取り入れている。障害者雇用にも社会モデルの考え方が求められている。

法律上、障害者の雇用を目的として設立される特例子会社で起きた問題ということで、雇用主の合理的配慮は特例子会社でない企業よりも広い範囲で認められるように解釈されてしかるべきと思われた。だが判決では、被告会社が特例子会社であることにも特に考慮されていなかった。

特例子会社制度とは、企業が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立した場合、一定の要件を満たすことによって、その子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなし、実雇用率を算定することができる制度。特例子会社で雇用された障害者は、親会社に所属している従業員に対して必要とされる障害者雇用者数としてカウントすることができる。

特例子会社は、一般の職場よりも手厚く障害に配慮された設備や環境が整えられ、スタッフも障害者雇用にノウハウのある人材が揃うことになっている。しかしその運営に関しては、親会社の意向、業種、規模によって変わってくるのが実態。被告会社はウェブ制作事業、行政受託事業およびデジタルアーカイブ(文書電子化)事業を主に運営していた。

被告会社ホームページに掲載されている行政受託事業のリスト。

厚労省の合理的配慮事例では、身体障害者への合理的配慮として障害特性に配慮した服装の着用を認める例が紹介されている。

しかし、見た目で障害があるようにわかりづらい高次脳機能障害となると、身体障害者に認められるような配慮が認められづらい。

こうした状況を変えていこうと、ここ10年間、各所で見えない障害(特に精神・発達障害)への理解啓発、教育や就労について様々な模索がされ、わかりやすく実践的で、対人交渉力にハンディのある人でも誤解を受けることなく伝えられ、また企業が検討しやすいような、合理的配慮の書面テンプレートが作られたり、定着支援が進められたりしてきた。それで障害者の定着率は向上した。

岐阜地裁判決は、時代の二歩も三歩も後ろを行くようだった。

女性は控訴の公算、高裁に持ち込まれるか

こうした裁判は、本来であれば、特例子会社側が再発防止に取り組む形の和解など、判決とは異なる柔軟な形での解決につなげるのが望ましいとみられるが、そのような解決に至らなかった。特例子会社の基本を忘れていないか。環境の変化を苦手とする障害特性の人が多い職場環境であり、「本人にとって慣れたことは変更しない」という基本である。

今日の障害者雇用の現場では、訴訟になったところで何してでも勝てばいい、違法性認定した判決が出なければいい、というのではいけない。訴えを起こされた時点で信用低下は避けられないと思うべきである。本訴の前の労働審判とも合わせると、2019年9月から3年間にわたり争議が続いていたことになる。

原告側は控訴する公算が高く、高裁に持ち込まれるとみられる。

繰り返すが、「解釈のズレ」を追認した事実認定について、筆者は頭を抱えている。判決前日、女性は筆者とのメッセンジャーで、「被告が『解釈のズレ』を私の障害のシンボルみたいに言うから、私の抱える問題の中心にそれがあるように感じられてしまった。被告の話に惑わされないで」「会社が私の障害特性のうち唯一理解していたと思われる『解釈のズレ』に全ての問題を背負わせようとしただけ。聞いていて『なんでそうなる』って話が多かった」と伝えてきた。

判決後の会見で、筆者は原告弁護団に、「配慮を強要と受け取り、『解釈のズレ』が生じた、ということは起こり得るのか」と尋ねてみた。「解釈のズレ」を根拠に「強要ではなく提案だった」と被告側が主張してくることは、原告弁護団も想定内だった。しかし森弘典弁護士は、「それまでの経過からして、『解釈のズレ』が表立っていたことはなく、少なくとも前身会社ではちゃんとそういうことが埋め合わせをされて問題は起きていなかった。なのに担当者が変わってから問題が起きた。本来は『解釈のズレ』による問題は起きていなかった。本来互いに了解して合意していたのに、変わることが問題だと理解しているはず。それは女性にとってよくない。専門家の意見も聞かずに一方的に提案してきた。提案自体がよくない、勧めること自体もよくない。ここを裁判官は考慮していない」と答えた。

裁判官の根拠は、憲法や法律に加えて、国民感情、それが許されるものかどうか、ということ。高次脳機能障害や特例子会社というものへの社会の認知が低すぎる現状を憂う。こうした判決が出るということが、それを許さないとする国民感情が高まっていないことの表れであれば、問題意識を喚起していく。

2023年2月8日 控訴審

【2023年5月14日訂正】

「復職に向けた面談で心理士やハローワーク担当者が職場改善を求めた」とありましたが、正しくは復職に向けた五者面談で職場改善を求めたのは「心理士や障害者職業センター担当者」でした。当事者より「ハローワークは被告会社寄りで、私の話をまともに聞かなかった(職場改善を求めることはなく、私に職場に合わせる努力を求めた)なので事実とは異なります」と指摘があり、裁判資料によれば五者面談でハローワーク担当者は出席していませんでした。訂正し、お詫び申し上げます。

この記事が参加している募集

多様性を考える

よろしければサポートお願いします。サポートは100円、500円、1000円、任意の金額の中から選ぶことができます。いただいたサポートは活動費に使わせていただきます。 サポートはnoteにユーザー登録していない方でも可能です。